『高市政権は来年大コケする』ひろゆき論考をどう読むか ――減税なき批判と「日本政治のデジャブ」――

『高市政権は来年大コケする』ひろゆき論考をどう読むか ――減税なき批判と「日本政治のデジャブ」――
Photo by Ksenia Yakovleva / Unsplash

実業家のひろゆき氏がプレジデントオンラインに寄稿した「だから高市政権は来年大コケする…高い支持率に隠された短命で終わる政権の典型的特徴」(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))
という記事が反響を呼んでいる。

タイトル通り、論旨は明快だ。

・高市政権は「財政は慎重に」「でも景気は良くしたい」「株価は下げたくない」「インフレは困る」「給付は控える」「でも賃金は上げたい」という“詰め将棋状態”であること。(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))
・物価先行・賃金追いつきのインフレ頼みは構造的に無理筋であり、「構造的に長持ちしない政権」だということ。(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))

高市政権の現状に懐疑的な読者にとって、感覚的にはかなり“刺さる”文章だろう。
しかし、内容を一つずつ分解していくと、いくつかの重要な「空白」も見えてくる。


1. この記事が描いている「高市政権像」

ひろゆき氏の記事が強調しているポイントを整理すると、主に次の三つに集約される。

  1. 物価先行・賃金後追いのインフレ頼み
    物価を押し上げつつ「そのうち賃金が追いつく」というシナリオを「無理筋」と断じている。(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))
  2. 株価は“実績”ではなく“期待”で上がっているだけ
    日経平均の史上最高圏は、政策の成果ではなく「高市政権ならやってくれそう」という期待の反映に過ぎず、その期待は簡単に崩れるという指摘である。(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))
  3. ご祝儀的な高支持率と短命政権のパターン
    感情論と期待だけで走る政権は、数字と構造が味方しないため短命に終わる――という「政権寿命モデル」が提示されている。(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))

構造把握としては一貫しており、読み物としての説得力もある。しかし、ここには「何を論点から外しているか」という別の視点が必要になる。


2. ほとんど触れられていない「減税」と家計の手取り

現在の高市政権を語るうえで外せない争点の一つが、ガソリン税・軽油引取税の旧暫定税率(当分の間税率)廃止を含む減税パッケージである。
各種試算では、暫定税率廃止だけで国・地方あわせて年1.5兆円規模の減税効果とされている。(NRI)

これが「良い政策かどうか」とは別問題としても、

  • 物価高で圧迫されてきた家計の可処分所得をどれだけ下支えするか
  • 減税規模と代替財源(高所得層や法人への課税見直し)がどこまで現実的か(NRI)

といった論点は、高市政権の持続可能性を論じる上で本来避けて通れない。

ところが、ひろゆき氏の論考では、こうした具体的な減税措置と「手取りベース」の議論がほとんど登場しない。
そのため、

「物価だけ上がり、生活は苦しくなる一方だ」

というフレーミングが強調される一方で、減税による家計の下支えがどの程度カウンターになり得るか、読者は判断材料を与えられていない。


3. 旧民主党政権との“デジャブ”は誰のものか

日本政治に詳しい読者の中には、この構図から旧民主党(鳩山政権)時代のガソリン暫定税率問題を連想する人も多いはずだ。

  • 2009年:民主党は「ガソリン暫定税率の廃止」をマニフェストの目玉に掲げて政権交代を果たした。(DLRI)
  • しかし2010年、代替財源の欠如や温暖化対策への逆行批判から、最終的には暫定税率を実質維持する「当分の間税率」へ衣替えし、二重の公約違反と厳しく批判された。(国際環境経済研究所)

「減税を掲げたが、財源や構造設計が甘く、結果として信頼を失う」というパターンは、日本の有権者にとって強烈な記憶として残っている。

言い換えると、この“デジャブ感”は
記事ではなく、日本政治を見てきた側の記憶から立ち上がってくるイメージであり、そこを混同するとフェアな評価からは離れてしまう。


4. 「来年大コケ」予言の精度はどの程度か

記事タイトルの肝は、「来年大コケする」という強い時間指定の予言部分である。(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン))

  • 政権支持率の裾野が狭い
  • 政策構造が無理筋である
  • 株価も期待先行で脆い

といった指摘自体は、データや他の専門家の分析でも一定程度共有されている論点だと言える。

しかし、「だから来年必ずコケる」という時間軸まで含めた主張は、政治学の定量分析というより、かなりの部分がコラムニストとしての勘とレトリックに依存している。

精度で言えば、

占いと予想の「あいだ」くらいのもの
と見るのが妥当だろう。

政治はしばしば、「偶然」と「外生ショック」(国際情勢、災害、他党の失策)によって大きく振れる。
構造的な弱点がある政権が、想定外の追い風で延命することも、逆に強固に見えた政権が一つのスキャンダルで突然崩壊することも、歴史が何度も示してきた通りである。


5. 何が“抜けている”のかを意識して読むべき記事

ひろゆき氏の論考は、

  • 高市政権のインフレ依存的な側面
  • 株価と「期待」の危うさ
  • ご祝儀支持率の脆さ

をコンパクトに言語化したという点で、読み物としての価値はある。

一方で、

  • 減税や手取り増加の効果
  • 代替財源をめぐる本格的な財政議論
  • 旧民主党政権とは異なる制度設計や国際環境の違い

といった要素は、ほとんど紙幅を割かれていない。

そのため、このコラムを**「高市政権の将来を占う決定版シミュレーション」として受け取ると、どうしても認識が偏る。**
むしろ、

・高市政権への「不安」や「違和感」を言葉にした、感情と構造の“スケッチ”
・ただし、重要な政策要素(減税・財源・制度設計)は別途、自分で確認が必要な“片側からの見取り図”

として読む方が、現実に近い。


結局のところ、このコラムは**「高市政権に批判的な視点のひとつ」**として読む価値はあるが、政権の将来や日本経済の行方を判断するには、減税・財政・国際環境を含むより多面的な情報と併せて検討する必要がある――
そこまで見て初めて、「占い」ではなく「分析」に近づいていくはずだ。